附属図書館長 山本 智子

 大学図書館には大学の機能を支える「知のインフラ」としての役割が求められています。この役割において近年特に注目される流れに、学術情報のオープンアクセス化があります。誰もが学術情報に無料でアクセスし利用できるようにすることによって研究活動の透明性を確保し、協働によってさらなるイノベーションを促進しようとする動きです。最終的な研究成果である学術論文だけでなく、研究過程で得られたデータも公表し共有するオープンサイエンスの推進は、G7 の共同声明にも盛り込まれた国際的な動きでもあります。
 附属図書館はこれまで、鹿児島大学に所属する研究者が学術情報にアクセスする方法、すなわち学内に対する学術出版物の提供を重要な任務としてきました。しかしながら今後は、本学の研究者が発表する学術情報の発信窓口という役割が期待されます。論文については、電子ジャーナルの転換契約によってAPC(オープンアクセス掲載料)をおさえ、本学の研究者が出版する論文の一部についてオープンアクセス化を容易にしました。論文はオープンアクセス化によってより引用されやすくなることが分かっていますので、オープンアクセス化の促進は本学から発信される研究成果の価値を上げることにもつながります。また、今後、科研費など競争的研究資金の獲得にあたっては、出版論文の根拠データの公表が義務付けられることになっているため、その窓口となるべく機関リポジトリの整備を計画しています。総合大学である鹿児島大学では、様々な専門分野で幅広い研究が行われており、扱われるデータのタイプも様々です。多様なデータタイプに対応し、研究者側の利便性に配慮しつつ、一方では権利を保護してデータを適切に管理する、難しい課題ではありますが、インフラとして研究の下支えをしっかりとしていきたいと考えています。
 一方で、教育におけるインフラ機能はどうでしょうか。2020 年度以降増加しつつあるとはいえ入館者数はコロナ前の水準には戻っておらず、貸し出し冊数についても同様です。コロナ下では、遠隔講義など教育において対面以外でのコミュニケーションが増えるとともに、電子図書や電子ジャーナル、インターネットでの検索など、印刷物以外からの情報収集が大きな役割を果たしました。情報流通の技術革新は望ましいことですが、若者を中心に、系統的に情報を得る、情報を精査し、新しい情報を自ら構成する、といった手間を厭う傾向がますます加速しているようです。このままでは、情報の入手と発信を全て他者任せにしてしまうのではないかという危うさすら感じます。その反面、対面でのやりとりが必須の協同活動については前向きに取り組む学生も多く、ラーニングコモンズにはコロナ前の風景が戻りつつあるようです。今後もこのような場の提供を通して能動的な学びを支えていくとともに、情報リテラシー教育を継続し、情報を主体的に利用・発信する能力を涵養する手助けをしていきたいと思っています。