附属図書館長 山本 智子

 大学図書館には、大学の教育・研究・社会貢献といった機能を下支えするインフラとしての役割があります。
 地方大学である鹿児島大学では、地域社会への貢献は重要な任務であり、鹿児島の歴史と文化に根ざした知の集積は鹿児島大学附属図書館にしかなし得ないことだと強く感じています。当館では玉里島津家の蔵書である玉里文庫をはじめとした貴重書を数多く所蔵しており、これまでもその保管と修復に取り組んできました。明治維新を実現し近代日本の牽引車でもあった鹿児島の地でこそ、このような資料を引き継いでいくべきだと考えるからです。また、貴重書のデジタル化をより一層推進し、研究資料としての活用や地域の宝としての公開に取り組んでいます。昨年12月には鹿児島大学デジタルコレクションをリニューアルし、所蔵する貴重書の画像を公開すると共に学内外からのアクセスを容易にしました。
 このような動きは、近年世界中で推進されているオープンサイエンスの流れに沿うものでもあります。オープンサイエンスとは、誰もが研究データや学術情報に自由にアクセスできるようにすることで、研究プロセスの透明化を担保すると共に新たな協働による知の創出を目指すものです。附属図書館はこれまで、鹿児島大学に所属する研究者が学術情報にアクセスする方法、すなわち学内研究者に対する学術出版物の提供を重要な任務としてきました。しかしながら今後は、本学の研究者が得た研究データの公開と研究成果である学術論文の発信のための窓口という役割も期待されます。そのため、今年度から「未来共創オープンサイエンス推進事業-地域課題解決型「KAGOSHIMA モデル」の形成-」を立ち上げ、オープンサイエンス研究開発部門を発足させました。総合大学である鹿児島大学では、様々な専門分野で幅広い研究が行われており、扱われるデータのタイプも様々です。多様なデータタイプに対応し、研究者側の利便性に配慮しつつ、一方では権利を保護してデータを適切に管理する、難しい課題ではありますが、インフラとして研究の下支えをしっかりとしていきたいと考えています。また、地方の総合大学がどのようにしてオープンサイエンスに対応していくのかという意味でも、この事業の進展が「KAGOSHIMA モデル」となることが期待されます。
 一方で、教育におけるインフラ機能はどうでしょうか。コロナ下において電子図書やインターネットの活用など印刷物以外からの情報が大きな役割を果たしたこと、ポストコロナ時代に入って生成AIが広く使われるようになったことによって、大学における教育の質は大きく変化したと言われています。情報流通の技術革新は望ましいことですが、系統的に情報を得る、情報を精査し、新しい情報を自ら構成する、といった手間を厭う傾向がますます加速しているようです。その反面、ラーニングコモンズには多くの学生が集うコロナ前の風景が戻りつつありますし、桜ヶ丘分館で試験期間に行っている夜間開館も好評です。大学附属図書館としては、このような場の提供を通して学生の能動的な学びを支えていく とともに、情報を主体的に利用・発信する能力を涵養する手助けをしていきたいと思っています。