図書館について

 

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附属図書館長 山本 智子

 橋口前館長の後任として、本年4月から附属図書館長を務めることになりました。この場をお借りして就任のご挨拶を申し上げます。私自身は水産学系に所属し、海岸に生息する無脊椎動物の生態学を専門としています。これまでの大学図書館との関わりと言えば、研究者に必要な文献情報を利用するユーザーとしてか、学部教員として指導する学生を通しての間接的な関わりでした。自身が運営側に立つことを想定しておらず、まだ「中の人」になりきれていませんが、大学にとって最も重要な「知」の下支えに少しでも貢献できればと思っております。
 図書館運営について知るにつれて、大学図書館が持つ多面的な機能が見えてきました。最新の研究成果を提供する電子ジャーナルやデータベースといった研究支援もあれば、歴史的な文献の保守など人類が蓄積してきた「知」を次世代へ引き継ぐ役割もあります。また、能動的な学習の場であるラーニングコモンズや学習室に加えて、ギャラリーやアメニティルームなど教育や学生生活への支援は、近年特に重要視される機能です。
 Society5.0と呼ばれる新時代を迎え、鹿児島大学附属図書館はどうあるべきかを考えた時、大学図書館としての普遍的な役割と鹿児島に根ざした役割という2つの軸が見えてきました。自然科学を中心に学術の分野は恐るべきスピードで進んでおり、大学である以上世界水準を満たす必要があります。ビックデータ化、オープンサイエンス化の流れの中、研究データの適切な管理と共有が求められるようになり、このような流れに乗れるかどうかが大学における研究の活性を左右すると言っても過言ではありません。限られた予算の中ではありますが、電子ジャーナルの整備とオープンジャーナルの活用、研究データのオープン化やその利用を後押しできるよう模索していきます。
 一方で、鹿児島の歴史と文化に根ざした知の集積は、鹿児島大学附属図書館にしかなし得ないことだと強く感じています。当館では、玉里文庫をはじめとした貴重書を多く所蔵しており、これまでもその保管と修復に取り組んできました。明治維新を実現し近代日本の牽引車でもあった鹿児島の地でこそ、このような資料を引き継いでいくべきだと考えています。しかしながら、予算とスペースに限りがあり、保管状況は必ずしも万全とは言えません。そのため、貴重書のデジタル化をより一層推進し、後世に引き継いでいきたいと思っていますが、一方で、研究資料としての提供や地域の宝としての公開といった課題も残されています。「かぎん『玉里文庫』貴重書保存事業基金」によるデジタル化事業を進めるにあたっては、「『鹿児島の近現代』教育研究拠点整備事業」との連携を密にし、教育研究面の活用を意識した動きにしたいと思います。
 約3年間にわたるコロナ下での生活は、大学生の学習環境にも大きな変化をもたらしました。ポストコロナ時代の今、対面での学びとコミュニケーションを希求する学生がいる一方で、それを重荷と感じる学生もみうけられます。若者の活字離れは随分前から危惧されてきたとはいえ、高校生2年生の30%以上が1ヶ月に1冊も本を読まないという調査結果には大きな衝撃を受けました。加えて、チャットGPTに代表される生成系AIの誕生など、学生も教員もテクノロジーの進化に翻弄されつつあります。このような時代だからこそなおさら、自発的に学ぶ意思と能力、論理的に文章を読み、表現する力、といった当たり前の能力が必要とされるのではないでしょうか。大学図書館として、その当たり前の能力を支える存在でありたいと強く感じています。

【写真:リアライズ】